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フランケンシュタインなDNA
もう一つの遺伝子組換えと誤解されがちなバイオの技術にクローン技術というのがある
。「クローン生物」の項で述べたものである。この場合は同じ生き物の種類(例えば、人)なのであるが、普通は発生は受精卵から出発するが
、この受精卵の核を殺し、同じ種類の生き物の他の個体の身体の何処かの細胞(親になった状態の何処かの細胞、でもかまわない)の核を取り出し、そこに代わりに入れると、他の個体と同じものが出来る、という技術である
。核は全遺伝子がつまっているところであるから、これも広い意味では遺伝子の組換えの中に入る。この話は「クローン生物」の項を御参照ください。ここではやはり、上記の遺伝子の一部を組み換えて他の生き物の遺伝子を一部組み込む、という話に集中しよう
。
DNAは「マニアックな分子生物学の付けたり話5(跳ばして読むコーナー)(DNA合成のメカ)」の項で述べたように、今では簡単にどんな生き物からも化学的に取り出すことができる
。この中の1ヶの遺伝子DNAの部分を取り出す方法がある
(これを「遺伝子クローニング」あるいは少し構造を変えた操作する「cDNAクローニング」と呼んでいる)。この遺伝子を取り出す作業は今では実に簡単に出来、その気になれば高校の生物の実験でも可能な作業である。しかし、ここにその方法を書くと興味のない人には実に無味乾燥である
。自分で実験しながら覚えるのならともかく、他人から文章で聞いていると、私でさえ眠くなる
。聞く気がしない。もしこの方法が知りたければ、農業高校の品種改良の教科書を見て下さい
。医学的な遺伝子操作も全く同じです。何故か、大学の教科書は実に難しそうに書いてあるが、高校の実用の教科書の方が分かりやすく、よくできている様です。遺伝子操作なんて人でも畑のイモでも同じ技術を用いている
。人の話になると人はヤケに驚くが農業高校の生徒が簡単に出来るぐらいの作業に過ぎない
。
この取り出した1ヶの遺伝子を他の生き物のDNAの中に入れて定着させてしまうのである。一旦入ったその部分は、その生き物の遺伝子組成の一部になり、子供にも自動的に伝わり遺伝していく
。何でこんなことができるかというと、たいていの生き物には、その生き物のDNAの中に潜り込んで病気にさせるという感染症の原因生き物がいる
。ウィルスによる伝染病の1種である。人でいえば、癌ウィルスなどである。こういうウィルスのDNAの中に他の遺伝子DNAを化学的に切り張りしてこっそりとはめ込んでおくのである。はめ込まれてもバカなウィルスは全く気がつかず、そのまま生きている
。そして、これを感染させると、感染させられた方の生きもののDNAは間違ってこの遺伝子DNAも自分のDNAの中に入れてしまうのである。入り込んだら最後もう他人とは思えなくなって、細胞はそのDNAも大事に大事に増やし育てていってしまうのである
。これを遺伝子操作とか遺伝子組換えと呼んでいる。だから、全身のDNAがこれを持つためには、まだ分裂を開始する前の受精卵に組み込むのが一番である。親になった全身の細胞がこの遺伝子を持っていることになる。もうとても他人とは思えませんわな
。
<お知らせ> 読むと得します
表題:環境汚染で滅びないために。生物学者の目から見た環境問題。
著者: 坂口謙吾 (理科大ぼっちゃん選書)
出版社:オーム社
ご購入は http://www.7andy.jp/books/detail/-/accd/R0367400
作者:
更新日:2008年10月11日 14時19分
ハエ人間の子ども
26 遺伝子組換えと動植物
遺伝子を組換えられた動植物の話題が社会を賑わすようになって既にかなりの時間がたった
。この問題もバイオの観点から述べておく必要があるだろう。バイオの原理を無視した極端な議論が横行しがちだから、冷静にどういうものか知っておく必要がある
。
まず、遺伝子の組換えというのは、生物の進化の基本であり、日常茶飯事に起きている現象である、ということを認識してほしい
。減数分裂で父方と母方の染色体上の遺伝子が組換えを起こすことをしつこく述べてきたが、これは典型的な遺伝子の組換えである
。そして、遺伝子の組換えは遺伝現象の上でも非常に重要だが、進化の中でも重大な役割を果たしてきたことを述べた
。ここでまず言いたいことは、遺伝子の組換えと言うのは世にも恐ろしい悪魔しか出来ないような作業ではなく、いつもそこら中で起きている現象であると言うことである
。あなたの身体の中の精巣や卵巣の中で年中発生しているのである。そして、そのおかげで、あなたの可愛い子供達も誕生できたのである
。それがなければ、あなたはほぼ不妊になり子ができないことになる。遺伝子の組換えが起きないと人類はあっという間に滅亡してしまうことになる
。
何故、こんなに話題になるようになったのだろうか?今までの生き物の常識では出来ない相手同士で可能になったからである
。普通は子供を作るためには生殖が必要である。その生殖は同じ種類同士のオスとメス間で行われる。決して人間以外の生き物と交雑することなどない
。また無理に交雑しても、その精子と卵子は合体して受精卵になることもない。人はともかく、近縁種の多い種類の生き物では、全く同種でなくても交雑することも稀にはある。よく知られている例でも、ライオンとトラの間係、馬とロバの間係、いろいろな植物間の関係、などいろいろある
。しかし、これも受精卵ができるのは極めて近縁な種間に限られる。まさかあなたは動物と植物の雑種ができるとは想像をしたこともないだろう。いったいどんなものができるのか想像もつかない、完全なSFの世界である
。これはただちに注釈しておこう。パニックを起こされては困りますのでね。動物と植物の雑種は最新の細胞工学をもってしてもできない。理論的にも出来ないのである、念のため
。そして、もう一つ付け加えたいのは異なる生き物同士の雑種といっても、完全な雑種ではなく、ごく一部の遺伝子だけが加わったりするだけの話である(これなら動物と植物の間でもできる可能性がある)。非常に異なる種類のあいだの全遺伝子が合体しても、実は発生できず親にもなれない。受精卵になりにくいもの同士の組み合わせでは、人為的に遺伝子を合わせてもやっぱり雑種は出来ないのである
。38億年の進化の過程は伊達ではないのである。そんなことは不可能なように進化しているのである。御心配なく。植物と人間の雑種などは絶対的に不可能なのである。ハエと人間の雑種も不可能で,ハエ人間はハリウッド映画の中だけでしか出来ないのである
。ただ、片方の生き物の遺伝子の中に、もう一つの生き物の遺伝子の中のごく一部(たいていは1ヶの遺伝子)を入れることができるというだけの話なのである
。つづく
<お知らせ> 二酸化炭素排出権もなんのその
表題:環境汚染で滅びないために。生物学者の目から見た環境問題。
著者: 坂口謙吾 (理科大ぼっちゃん選書)
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更新日:2008年10月10日 11時36分
体の中の外科医
次は、修理(修復)のDNA合成反応である
。
述べたようにDNAというのはまことに弱々しいヒモである。しょっちゅうキズがついてもおかしくない
。物理的なひっぱったり押しつぶしたりする力から逃れるためには、パスタの玉のごとく集まるとか、タンパク質が一杯周りについて切れないようにするとか、いろいろ方法がある
(実際にそうしている)が、一番DNAが怖がっているナイフのようなものは、そういう力よりも紫外線だった
。DNAの最大の天敵は今も紫外線なのである。紫外線が当たるとDNAはキズだらけになって、放っておくと死んでしまう
。これは38億年前も今も同じである。これを治す正確な化学反応は今では正確に解明されている。専門書を御覧あれ、ここで説明していたら、全員この本から逃げ出すことになるので止めておく
。
さわりをちょっと語ろう。人が腕に縫わなければとても塞ぎ切れない大きな深い切り傷が出来たとする
。医者に行けば、キズはまず泥を拭ききれいに洗い、消毒をする。そして、おもむろに縫うことになる。縫った上からキズ薬を塗り包帯で捲き、治りを待つ
。また、場合によってはそういう条件がないので、そのまま何もせず強引にキズをピンで留めて放っておいても良い。DNAのキズ治しも同じようなものである。まずキズの位置を特定する(最初の化学反応)
。そのキズがどんなものか確認し(2番目の化学反応)、強引にピンで留める程度ならピンで留める(第3の化学反応)
。これでは無理な場合、キズの周りを少し削ってならす(第4の化学反応)。次にならして空いたところを上記の複製とよく似た化学反応で合成する(第5の化学反応)。これが修理の全てである
。ようするにDNAを合成する過程は複製も修復も基本的には同じである。ただ、隣り合ったヌクレオチドのリン酸と糖をくっつけるだけの反応に過ぎない。その過程に働く酵素は多数あり、実は極めて複雑でここにさっとかける程単純ではない。そういうことが知りたいマニアは専門書を見て下さい
。
このように合成されるDNAの中の塩基の配列の暗号は如何に読みとられるのだろうか?ここにRNAというDNAによく似た化合物が出てくる。この化合物も核酸の1種でヌクレオチドのつながったヒモである
。ただし、いつも1分子で行動し、二重ラセンはあまりつくらないし、長さも滅法短い。1ヶの遺伝子DNAの長さ程度である。ヌクレオチドといっても塩基の種類と糖が少し異なるのである
。糖はデオキシリボースではなく、リボースである。デオキシリボースとリボースはほんの少しだけ化学構造が異なる
。また、塩基も4種類であることは変わらないが、1つがチミンではなくウラシル(Uと略す)である。その他は同じである。
このRNAはDNAの遺伝子の部分につき、凸凹を同じように読み取る
。ただし、1ヶの遺伝子部分だけを読み取ると、そこからさっさと離れて染色体の外へ出ていく。その暗号が裏返しになったRNAは細胞の中のタンパク質製造工場があるのだが、そこへその暗号を伝えに行くのである
。工場ではその暗号に基づいて必要な酵素やタンパク質をつくり細胞の中に送りだすのである
。暗号を伝えたら、そのRNAはお役御免になって壊されてしまう。壊れるといっても、ヒモでなくなり元の1分子のヌクレオチドに戻るだけである。つまり高分子のRNAはRNA用のヌクレオチドから創られては消え、創られては消え、というサイクルを繰り返しているのである
。同じ核酸という言葉で表されているが、実にはかない運命の核酸である。RNAによって伝えられた暗号はタンパク質製造工場で翻訳され、その暗号に従ってタンパク質を創る、と書いたが、その過程も正確に現在では分かっている。これまた、その方面の専門書を読まれたい。
つづく

<お知らせ> 読むと得します

表題:環境汚染で滅びないために。生物学者の目から見た環境問題。
著者: 坂口謙吾 (理科大ぼっちゃん選書)
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作者:
更新日:2008年10月9日 11時58分
ふらふらしながらしっかり相手を見つける
その設計図としての遺伝暗号は、何度も書いてきたがこの塩基の並び順で表されている
。本当は塩基の並びではなく、塩基のついたヌクレオチドの並び順である。この塩基が3つの並びで1つの言葉を示すようになっている
。この言葉が30ヶ、百ヶあるいは千ヶ以上つながると、形をつくる意味になる。我々の語る言葉も一つ一つの平仮名だけでは意味がないが、いくつかつながると、例えば「これはつくえです」という風に意味が出る
。こんな風に遺伝暗号は塩基の並びで記憶されているのである。ちと分かりにくかったかもしれない。この述べた話は、コンピュータ・オタクの人達なら意味が良く理解できると思うので、分からなかったら周りにいる彼等に質問して下さい
。要するにコンピュータの記憶素子と同じようなメカになっている。コンピュータではゼロと1だけの2進法を使うが、遺伝暗号は4つの数値の3つを使って表すようになっている
。
さて、この項の目的は、このDNAたちが如何に複製し修理するかを述べることである
。ヌクレオチドはリン酸と糖を使って数珠つなぎになっている。では塩基はどうしているか?ヒモの形には無関係に、ちゅうぶらりんに遊んでいるのである
。そして、AとTは弱い力で互いにくっつくことが出来る。同じようにCとGもくっつくことが出来る(下図)。しかし、それ以外の相手とはくっつけない。そこで、ヒモ状のヌクレオチドの塩基の並びは、Aの部分にはプカプカ水の中に浮かんでいる1ヶのTを持つヌクレオチド1分子(繋がったヒモの中ではなく、どれにもくっついていない自由に動き回っている1分子)にくっつくことになる
。Cに入ったヒモの部分も同様に自由に動き回っているGの入った1分子のヌクレオチドがくっつく。もしこのTとGが隣り合っていたら(ヒモの中のAとCが隣同士であったことになる)、このTとGの各々のヌクレオチドの糖とリン酸が化学結合することができたら、ちょうど逆の塩基配列を持つヒモが出来ていくはずである。実際にそうなっている
。
だから、最初からヒモの方のDNAを鋳型とか鋳型DNAと呼ぶのである
。この相手側に出来ていく新たなヒモは新生した長いヒモ状の(しかし、塩基配列はちょうどAはT、CはGの裏返しの配列になった)DNA分子になる。こういうのを「相補配列」と呼んでいる。この二つの相補配列のヒモは普通は離れずそのままくっついており、ひねりが入ってラセン構造になる
。それで、これを「DNAの二重ラセン構造」と呼んでいるのである。倍加(複製)はこのようにして行われる。するとDNA複製のための化学合成反応とは、簡単には2つに分けられることになる
。まず、二重ラセンになった2分子のDNAを互いに他から、離れるのをいやがるのを無視して、強引にひっぺがして別れさせることになる
。すると、無理矢理別れさせたお互いのDNAのヒモの上の塩基に、かってに浮遊している相補的なヌクレオチドがくっつき(実際にはくっつかせる酵素があるが、ここでは無視しよう)、並ぶ。並んだ隣同士のリン酸と糖を化合して繋げる
。DNA複製の化学合成とは、ただそれだけである。これがついには、他人同士の男と女がつきあい、子供をつくり子孫を残す反応まで繋がっているのである
。化学反応を見ていると、生命の神秘とか人間の精神活動とかよりも、なるほど生命とはゴミ処理マシーンに過ぎないのだ、という実感が湧いてくる
。つづく
<お知らせ> 世の中が違った視点から見れますよ

表題:環境汚染で滅びないために。生物学者の目から見た環境問題。
著者: 坂口謙吾 (理科大ぼっちゃん選書)
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更新日:2008年10月8日 11時38分
4進法のウエットコンピュータ
さあ、ここでは例外的にうんちくを傾けるぞ
DNAの倍加(複製)も修理(修復)もDNAの化学合成である
。複製の場合は、倍にするために構造と倍加の仕方(下図)を見たら分かる通り、片方を鋳型(つまり、銅像作りの時に使われるようなマイナスの型)に新しく合成する
。この新しく出来たものは次の鋳型にもなることが出来る。次々と前の構造を基準に無限に合成していくのである。一方、修理の場合は、キズがついたところの周りを少し削りだして、新たにその部分を合成するので、やっぱりDNA合成なのである(下図)
。
少し化学的な話になるが、DNAというものはヌクレオチオドと呼ばれる化学物質が長く線状につながって出来ている
(上図)。ヌクレオチドは何度もいってきた4種類の塩基(アデニン、グアニン、シトシン、チミンの4種、これらをその頭のアルファベットをとってA、G、C、Tと略されている)のどれか1つ、1ヶのデオキシリボースという糖、それに1ヶのリン酸が結合した構造になっている
(上図)。このヌクレオチドがリン酸と糖を介して線状にドーッと長くなり、その長さはDNA分子の長いものでは、ヌクレオチド分子の数にして1億ヶぐらいつながっているのも珍しくない
。このつながりを、既にあちこちで使ってきたが、「塩基配列」という。1ヶの遺伝子DNAでさえ、ヌクオチチド分子の数は数百ヶから1万ヶぐらい並んでいる。「マニアックな分子生物学の付けたり話3(もう少し詳しい突然変異の説明)」で少し書いたが、要するに親から子に伝わる特徴をDNAの中の化学物質の凸凹とは、この塩基の並びの違いのことである
。凸凹と描くと2つしか違いがないが、これが4つあると思えば良い。コンピュータの記憶暗号は0と1だけの組み合わせで出来上がっているが、塩基の暗号は4つあるのである
。1ヶの遺伝子の暗号はこの凸凹が数百から1万ヶぐらいつながって表されている。そして染色体には、普通はこの1ヶ1ヶの遺伝子DNAが何百ヶも並んでつながって存在しており(連関群またはリンケージ群を思い出してほしい)、かつ、遺伝子と遺伝子の間は意味のない「つなぎ役」のDNAがドッとあるから、そのヒモの長さたるや想像するのも大変である
。何しろ、そのヒモの幅は1ヶのヌクオチオド分子の幅(実際には、2重鎖なので2分子のヌクレオチド・サイズの幅)に対して、縦には1億ヶのヌクレオチド(塩基配列)が並んでいるのである
。強度の面からも、ちょっと引っ張れば切れてしまうような細長いヒモということになる。よくまあ、こんな不安定な化学物質に身体を再生するための設計図を託したものである。そしてまた、よくまあ、壊れもせずに38億年も続いたものである
。驚く他はない。でもこれでも他の生体の中の高分子成分に比較すると、それでも桁外れに丈夫な化学成分なのである。こういうものを核酸と呼んでいる。さらに、それを壊れないようにするためのメカニズムが猛烈に発達したのが、今の生き物とも言える
。もとは自動ゴミ処理マシーンに過ぎなかったものが、生き延びるためにはそのメカニズムの発達無しにはあり得なかった。その結果、そのマシーンから発達したDNA合成メカニズムや修理メカニズムが、さらには免疫や神経や、ついには意識まで生んだのである
(「自分と言う存在の認識、意識とは?」の項を参照してほしい)。つづく
<お知らせ> 周りの皆さんにも、教えてあげてね
表題:環境汚染で滅びないために。生物学者の目から見た環境問題。
著者: 坂口謙吾 (理科大ぼっちゃん選書)
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更新日:2008年10月7日 11時41分
でおきしりぼかくさん
25 マニアックな分子生物学の付けたり話4 (DNA合成のメカニズム)
さあ、ここでは前項に引き続き、更にもう少し高度なアカデミックな話をしよう
。バイオの話をするにはこういうところも話しておかないと片手落ちになるからである。こういう話は、この本の読者の大部分が毛嫌いする理科系の話になるが、それが好きな人もいるので、そのために書いていると思っていただきたい
。
この本の中でも、あちこちでDNA、DNAと連呼してきた。さもないとバイオが語れないほど重要な成分だからである
。だから、その化学構造も最初の方で与えた。そして、至るところで、それが倍加(複製)することも説明せずに書いた
。また、DNAに傷がつき、それを治すメカニズムの存在にも触れた
。しかし、これらのメカニズムの仕組みの説明は一切せずに済ませてきた。ここではDNAの倍加(複製)と修理(修復)の化学反応を簡単に説明してみよう
。こういう話は専門書を見れば、本当に微に入り細に入り説明してある
。この方面の専門家がもっとも好むところの話だからである。私はへそ曲がりなので、今まであえて説明してこなかった
。魚釣りが趣味の人は一日中飽きもせずに魚の話を語り
、山登りが好きな人は日がな一日その話をしていても飽きるところを知らない
。これはスポーツであろうと職業であろうと何でもその傾向がある。DNAの化学の話もそれによく似た現象を呈することが多い
。特に科学者という商売は、もともとその傾向のある変人の集まりとも言えるので、その傾向はおびただしい
。でもスポーツでも何でもそうだが、飽きもせずうんちくを傾ける人の話など、興味のない人には聞くに耐えない話である。私は大いにこの点を危惧して書かなかったのである
。
つづく

<お知らせ> 周りの皆さんにも、教えてあげてね!

表題:環境汚染で滅びないために。生物学者の目から見た環境問題。
著者: 坂口謙吾 (理科大ぼっちゃん選書)
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更新日:2008年10月6日 13時13分
洗練されたチームワーク
ここまで書いて、皆さん、ちと欲求不満があるのではないですか
染色体が組み換えるという話は、つまり、DNAが一旦ちょん切れて再び連結される話である
。しかも違う分子のDNAに。普通はあちこちで述べてきたように、DNAが切れると(つまり、壊れると)その生き物は死んでしまうことになる
。再度連結されるとはいえ、ずいぶんと危ない橋をわたるものである
。どんなメカニズムになっているのか知りたいとは思いませんか?
この化学反応に関わるタンパク質は、今では遺伝子の研究から大部分が分かっている
。この多くのタンパク質を集めてきて用いると、試験管中でも2分子のDNAの組み換え反応が再現できるのである。正確に間違えずに両方のDNA分子の同じ場所で組み換える化学反応系があるのである
。非常に沢山の化学反応が順番に正確に行われる。その各化学反応を触媒するタンパク質がいちいち存在するのである。細胞の中のその見事な巧妙さに私などもよく感心させられている
。38億年の歳月は伊達ではないと思わざるを得ない。本当にそういう反応が化学的に減数分裂の時期の細胞の中で行われているのである
。この過程をここに書いていると、全くの化学の話になってしまい、専門家以外はまず理解出来なくなってしまう。もちろん興味のある中学生や高校生なら忽ち理解するに違いないが、そういう学生は、のちのバイオの専門家の予備軍なので、あなた方はもっと詳しい専門書を読んでいただきたい
。ここでは井戸端会議用の話に終始しよう。とにかく、そういう複雑な化学反応があると理解して下さい。知りたいと思いませんか、といっておいて無責任な話だが、そうです確かにあるんです、化学的にもずいぶん危ない橋を渡っているのです、という結論になる
。後の項「神経と免疫」で述べるが、実はこの組み換えのメカニズムがさらに発達して、免疫のメカに重要な役割を果たすようになり、中枢神経の発生にも関係していることが示唆されつつある
。高等動物、特に脊椎動物(ひいては哺乳動物、そして人)への進化には、このメカニズムに関係する遺伝子が大きく関係しているようである。このメカニズムが発達しなければ、魚も恐竜も今日の哺乳動物なども出現することなどなく、世は昆虫や蜘蛛、ムカデなどの外套骨格型の動物が蔓延る世界になっていたのかも知れない
。つづく

<お知らせ>






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更新日:2008年10月3日 15時58分
サットン、モルガンが描いたもの
サットンさんといい、モルガンさんといい、皆、頭で考えただけでこういう理屈を思いついたのである
。それが正しいかどうかの実験を後付けで行ったのである
。研究方法にもいろいろあって、あまり考えず(?失礼)いろいろ試行錯誤していたら何か変な現象に出会った
。それでそれを調べていたら新しい原理を発見したという研究も多い。実験化学はそういうのが多いが、特にバイオはその傾向が極端に強い。しかし、彼等の研究は逆で、まず、頭で考えた理屈があり、その証明から出発した研究であった
。何となく、物理や基礎化学で見られる方法に近い。よって、大体このような発想の方が秀才にはカッコよく
見えるので、その後こういうタイプの研究が遺伝学では大流行になる
。余談になるが、基本的に生物学(昔は博物学といった)などは、バカでも出来る学問(いや、バカでないと出来ない学問)と思われる傾向が強かったこともあり、生物学の中でも、遺伝学だけは違う頭脳明晰なものがやる難しい学問だということになった
。私はそうは思わない(お間違えなく、私は遺伝学もバカの学問だと思っている)が、そのため今もバイオ専攻の優等生が選ぶ学問になっている
。
この遺伝子地図は、遺伝学では非常に便利なので、今では調査が可能な生き物全てで調べられている
。もちろん人でも調査されている
。遺伝病の遺伝子の座を決めるにも、この遺伝子地図は非常に役に立っている。どこへドライブに行くにも道路地図がないと困るが、遺伝子の研究をするにも地図がないと大変に困るのである
。だから、もちろん今ではこのような古典的な方法ではなく、もっと最新の方法ではるかに簡便に分かる方法が開発されている。更に興味のある方は、その方面の専門書で勉強して下さい
。
今日(2008年度現在)、すでに人のゲノムプロジェクト(要するに全ての遺伝暗号の解読計画)は完了し、人のDNA中の塩基の配列は完全解読されている
。このような仕事も、この遺伝子地図がなければ不可能に近かった。もっとさかのぼれば、遺伝子がDNAであることの証明さえ難しかったとも言える
。現代の遺伝学は、メンデルの法則に始まったとは言え、サットンに始まり、モルガンによって完成された遺伝子地図のアイデアは、今日の分子遺伝学のほとんどの原点なのである
。
つづく
<お知らせ> 環境志向のあなたに、是非読んでいただきたい一冊
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更新日:2008年10月2日 16時39分
小さくて大きな地図
ここまでは、知識の羅列に過ぎない。このあと、この知識を使ってうまいことを考えた人がいる。それを説明しよう
。
染色体上の遺伝子の並びが組み換えによってあっちこっちに行き来するのなら
、染色体の上の遺伝子の並びの2つの遺伝子を考えてみよう。その遺伝子同士は、お互いが遠くにあれば、その間に切れ目が入って組み換えの相手に入れ代わる率が高く、近くにあればあるほど、その間に切れ目が入って分かれる確率は下がるのではないか、と考えた人がいる。モルガンというアメリカの学者である
。なにしろ相同染色体はピッタリと抱き着きあって、その何処かで組み換えを起こす訳だから、染色体のどの部分も同じ柔らかさで、同じような成分ならそうなる可能性は高い
。これ以上こんな仕組みを詳しく説明しても眠くなるから、結論を述べよう。現在では彼のこの考えは正しかったことが証明されている
。
彼はもしこれが正しければ、同じ連関群つまり遺伝子の列上の、3つの遺伝子(例えば、1つは色A、2つめは形B、3つめは背の高さCとしよう)を考えた時、組み換えの頻度を見れば、同じ染色体上の遺伝子の相対的な順番や位置が分かるはずだと考えた
。その順番は、どっちが先か分からないが、A-B-CかB-A-CかB-C-Aのどれかになるはずである。C-B-A、C-A-B、A-C-Bもあるじゃないかと思うかも知れないが、後先を変えたら同じことである
。対立遺伝子を調べるために相手側はこの3つの遺伝子はすべて劣性とする(つまり、a-b-c、b-a-cまたはa-c-bである)。この父母を交配して、生まれてきた子供は、組み換え無しの場合、3つの遺伝子はすべて優性になる子供か、またはすべてが劣性になる子供が出来ることになる(上図)
。ところが沢山沢山子供が出来る生き物で調べると、3つのうち、1つないし2つの劣性の表現が優性の中に混じったりするのが少し出るようになる
。これは、染色体上の遺伝子Aのある位置と遺伝子Bのある位置の間、またはAとC、BとCの間に組換えが発生したことを意味する。この組み換えの起きる頻度を沢山の子供の数の中で比較すると、AとBが互いに別れる頻度(本当は全部優性の筈が、なぜかAは優性なのにBは劣性の子供がいる)が全体の3%ぐらいで、同じようにBとCが互いに別れている頻度が1%、AとCの場合は2%という値が出ている。こういう場合、A-C-Bという順番に染色体の上に遺伝子が並んでいる可能性が高い
(もちろん、B-C-Aと考えてもよい)。そして、距離の割合としては、全体の比例距離(AとBの間)を3とし、BとCの間が1、CとAの間が2となることになる。—A—C——B—となっていると思われる
。このようにして多数の遺伝子の間の相対的な距離を決めていくと、なにしろ1本の染色体上に1千数百ヶも遺伝子があるのだから、これを端から(まあ、どっちからという訳ではないが相対的な端である)決めていくと、立派に遺伝子の並びが決まる。こういうのを「遺伝子地図」と呼んでいる
。この遺伝子の分布の地図は、28の遺伝子を眼で見る(ショウジョウバエのダ腺染色体)のコーナーで述べるような眼で見える遺伝子の座を使って調べた結果により、その順番が正しいことが証明されている。モルガンさんはこういう便利なものが見つかるはるか前に、そのあり方を予言したのである
。つづく

<お知らせ> 環境志向のあなたに、是非読んでいただきたい一冊

表題:環境汚染で滅びないために。生物学者の目から見た環境問題。
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更新日:2008年10月1日 13時12分
人類みな兄弟
簡単である。「何で親は2人いるのか(減数分裂)」の項で述べたように、減数分裂の過程で、相同染色体が左右に別れる(減数第一分裂期)前の時期(減数分裂前期)に、相同染色体同士がべったりと抱き着き(対合)部分的に組換えを起こすのである
。その組み換える場所は必ずしも決まっておらず、連結していた遺伝子の列は、部分的に父方母方に移ったりするのである
。こういうのを「相同染色体の組換え」と呼んでおり、減数分裂期の染色体を観察していると、しばしば相同染色体同士が交差して組み換えているのが観察される
(これを「キアズマ」と呼んでいる)。分りやすく言うと、お母さん側から来た遺伝子の列(相同染色体の片割れ)のA-B-C-D-E-F-G-H-I-J-K-L-M-N----の一部、例えばD-E-F-Gが、お父さん側から来た対立遺伝子の列(相同染色体の片割れ)ア-イ-ウ-エ-オ-カ-キ-ク-ケ-コ-サ-シ-ス-----の一部、エ-オ-カ-キと入れ代わり、お母さん側から来たものはA-B-C-エ-オ-カ-キ-H-I-J-K-L-M-N----となり、お父さん側から来たものはア-イ-ウ-D-E-F-G-ク-ケ-コ-サ-シ-ス----となることになる
。こういうことが常に起きておれば、4人の祖父祖母の遺伝子の一部がいずれも孫に伝わることになる。もちろん、その代わりに全員の一部が伝わらないことになる
。
このようにして、違う個体の遺伝子同士は、子に移る時に混じっていくことになる
(「進化中立説」の項の中で述べた「遺伝子プール」の話はこういう理屈に基づいて出来ている)。この組換えは減数分裂の各々の精子卵子で少しづつ違うから、同じ配列になることは考えられないくらいに少ない
。だから孫の兄弟姉妹は同じお爺ちゃんお婆ちゃん、同じ父母から生まれても、少しづつ違うのである。正確には4人のお爺ちゃんお婆ちゃんのどの遺伝子の部分を寄せ集めたかの違いである。8人の曾祖父曾祖母になるとさらに8人分が一旦ばらけて、その中の8分の1がまた寄せ集まったことになる
。だから日本のような密閉された島国では、一定の数しかない遺伝子の群れを、一旦ばらけさせては部分を寄せ集めるということを繰り返しているに過ぎない
。2千年もそれを繰り返しているから、全員、部分的には親類になる。そして、全員が部分的には赤の他人である。
この混合は、なにかマージャンのようなゲームを連想させる
。すると、何回かに一回は同じ組み合わせができるのではないか!と思ってしまう
。これは人類の歴史上本当は自分と同じ人がいたことになる。そうか
歴史上の人物は前世の自分だったのかもしれない、なんてこともあり得るのだ!
これは理屈上はあり得る。しかし、実際には有り得ない
。2万数千ケの遺伝子が再び元の組み合わせを取り戻す確率は(簡単に計算できるが、読まれる方々が嫌になって、ここで放棄されては困るので計算しない)、想像を絶するくらいに低い。世界の人口が何千兆人になってもまだ足りないくらいの数にならないと出てこない。まあ、SF映画やSF小説の種にでもして下さい
。つづく

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更新日:2008年9月30日 12時46分








